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2010年03月23日(火曜日)更新
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赤い糸 17
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加藤悠子は、小さい頃から漫画を描くことが好きだった。実家は田舎の農家だから、大人はみんな忙しいので、一人で過ごすことが多かったせいかもしれない。時の経つのも忘れて、朝から晩まで時間を忘れて創作に打ち込む日も珍しくなかった。中学時代から漫画の同人誌を読んでいて、たまに投稿したりしていた。高校生になって寮に入っても描き続けて、部屋で勉強する時間でもこっそりと漫画を描いていた。時には見つかってしまって、寮母先生に叱られることもあった。衿子も読んでいてとても面白がり続きをせがまれたりしたこともあった。
悠子は高校1年の秋に、いつもの雑誌の懸賞に作品を出してみたら三位に入賞した。そして、雑誌に掲載された作品を読んだ九州の同人の男の子から手紙が来た。内容は、悠子の漫画にとても感動したことと、書き続けるようにという励ましのものだった。女子寮は、とても厳しくて家族や親せき以外の男の人からの手紙は、いちいちチェックが入る。それでも、九州から来た手紙だったので何とか親戚のおじさんと偽って手紙を受け取った。実はこの時から、はるか遠い九州の鹿児島に住む青年と、東北の秋田に住む悠子と、赤い糸が繋がっていたのだ。
文通相手の名前は、黛 太一と言って悠子より一才年上だった。二人は、月に2〜3度の割合で手紙をやり取りしていた。
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2010年03月16日(火曜日)更新
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赤い糸 16
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鎌倉へ向かう道もずっと渋滞していた。
時々すれ違うオープンカーが屋根を開けているのも、のろのろ走るだけで何だか虚しく見えてしまう。衿子と悠子は渋滞には慣れていない。いいかげんうんざりしていた。
季節は晩秋を過ぎていたから紅葉も終わっていた。ただ枯れた街路樹が有ったり、右側に湘南海岸が見えるとはいえ、景色は変わり映えもせず、どんよりと淀んだ海と砂浜ガ続いているだけだった。左側はたまにリゾート地らしい洒落た建物はあるが、殆んどが住宅で周りに楽しみがない二人は、昭雄をそっちのけにしておしゃべりに夢中になっていた。
二人のおしゃべりは、高校時代の先生のことや友達のことなど、留まることを知らない。高校の三年間、同じクラスになったことはなかったが学校の寮で一緒に暮らしていた。寮は1学年の人数が200人の中で40人ほどが入っていた。二人部屋で、1年ごとに部屋替えが有ったが二人は同質になったことは無い。かえってその距離感が良かったのか、よくケンカもするが何でも話し合えてずっと仲が良かった。生活を共にすると家族のようなもので、自分でも気付かないことを教えてくれたりもする。しかも二人は身長が同じくらいで、体系も似ていたから洋服を貸し借りしたりしていた。フリルが付いた華やかでゴージャスなもの、きらきらしていたり、大きな花柄だったり、赤やピンク色など好みも一緒だった。雰囲気が似ているせいか、時々間違えられることもあった。
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2010年02月16日(火曜日)更新
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赤い糸 15
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湘南海岸は、冬でも人が沢山いる。海岸沿いの国道は慢性的に渋滞している。
ごみが目立ち、灰色にどんより淀んだ海は、二人がイメージしていた、湘南というブランドとはほど遠いものだった。
衿子と悠子の育った東北の田舎の海は、この季節は人の気配はない。日本海なので明るくはないが、澄んでいてずっときれいだった。
江ノ島も、もっと大きくて独立した景観の良いところだと思っていた。何だか、こんな海で泳いだり、サーフィンをしたりするのかと思うとがっかりした。
「海の見える所で昼飯しようよ!」昭雄に言われて国道沿いのレストランの駐車場に入った。
いつものことだろうが、駐車場から混んでいた。入店するとまた入り口でも並んでいる。
衿子は、都会に出てきて1年に満たない。こういうところにはいつまで経っても慣れることはできない。洒落たメニューが有った訳でもないが、海を眺めながらハンバーグを食べた。
それから「次は鎌倉に行ってみようか?」と昭雄に促されて、一行は車に乗り込みいざ鎌倉へ。鎌倉は高校の歴史でしか知らない。
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2010年02月09日(火曜日)更新
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赤い糸 14
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昭雄は相模大野の駅の南口のロータリーに車を止めてふうっとひとつため息をつくと、大急ぎで改札口へ向かう階段を一段飛ばしに駆け上った。
衿子と悠子は、ちょうど電車の切符を買おうとしているところだった。
「ごめん、ごめん。もういないかと思ったよ。家で用事が出来てさ,お昼ごはんおごるから、かんべんしてよ!」
と息を切らしながら、まさか、姉のことは言えない。
「今もう切符買って電車で行こうとしてたのよ。」
衿子と悠子は顔を見合せてあきれている。
「とりあえず、車早く出さないと駐車禁止とられるから行こうよ!」
半ば強引に二人を車に案内する。こうしてツードアのスポーツタイプの白いセリカのリフトバックの後部座席に二人を乗せた。
「どこに行こうか?江の島とか、鎌倉とか、行ったこと無いんだろう?」
「うーん、まあ私は海が見たいから湘南海岸でいいかな。悠子はどこに行きたいの?」
と聞いてみる。
「私は、わからないから特別に行きたいとこが有るわけじゃないから、どこでもいいわ、おまかせします。」
というわけで、湘南海岸へ向かって昭雄は車を走らせることになった。
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2010年02月02日(火曜日)更新
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赤い糸 13
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こうして、満子は熱い夜を過ごしてその夜は家に帰らなかった。
翌朝、昭雄は母に言われて満子を探しにでかけた。
そういえば、1週間ほど前に満子をバイト先まで送った時に途中で友達の登美子を乗せて行ったことがあった。
その子に聞けばわかるかもしれないと、昭雄は思っていた。
以前に行った時は夜で暗かったので、簡単には見つけられなかったが、何とか登美子の住むアパートを探すことができた。チャイムを押してみるが、返事は無い。あきらめて車に戻ろうと歩いていると、ドアが半分ほど開いて登美子が顔を出した。
「朝早くから、すいません。姉が夕べから帰って来ないので探してるのですが…」
言いかける間もなく
「あら、満子はね 夕べ昔の恋人と再会してさ、一緒に早退して行ったよ!心配ないわよ。そのうちに帰るから」
昭雄は礼を言ってその場を立ち去ると、電話ボックスから家に電話をした。その旨を母に告げて、自分は用事が有るからこのまま出かけることも伝えた。
一刻も早く、駅に行かなくてはならない。もう約束の時間は過ぎてしまっているから、きっと怒っているに違いない。それより衿子たちは行ってしまったかも知れない。
そしてやっとのことで相模大野駅に着いたのは、約束を40分も過ぎてしまっていたのだ。
車を駅のロータリーに止めて、猛ダッシュで駅の階段を駆け上った。
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